槍の墓場 と 光の種

詩・小説・日々思う事・ジャンプ感想などを投稿します。

小説

「不可侵な境界」 2009年09月14日作成

中村忠志が初めて人を殺害したその日、川上雄太はいつものように両親から虐待を受け、篠崎深雪は叔母の家に引き取られ、そして、空が割れた。 空の割れ目からは充血した瞳が地上を見つめ、そして、やがてそれは薄緑色のジェルのような涙を流した。涙は地表に…

「輝石の如く」 2009年02月22日作成

人ごみの中に紛れてしまうと、そこに溢れる人々がまるでモノであるかのように、私の心でさえもそうであるかのように、街に溶けていく。 見知らぬ人々で溢れるこの世界は、誰のために動いていくのだろうか。 路地に入ると、そこには喧噪。 男が5人がかりで1…

「栽培」 2008年08月12日作成 (2012年06月02日、会話文に「」を追加)

「ねぇねぇ、田中さんのお宅…あんな事があったじゃない?」 「もう、あの話をするのはやめてよ・・・ご近所であんな事があったなんて思い出したくもないわ。」 「まぁまぁ…それでね、田中さんちのお子さん・・・」 「あぁ、あの子…」 「そう、その子。あの子…

「禁肉法」 2007年12月04日作成

ある日、世界のトップが言った。 「食肉なんて野蛮な行為はもうやめよう! 動物だって生きてるんだ!」 人々は熱狂し、応えた。 「そうだそうだ! 肉なんて食べるな!」 「屠殺(とさつ)反対! 屠殺反対!」 「命を大切にするべきだ!」 「無残に殺された動…

「ある家族の物語」 2007年11月05日作成

僕が父親に対して憎しみを抱いたのは、いつからだっただろうか。 僕が小学生だったころ、僕の父親はいわゆるエリート金融マンと呼ばれる人種で、昼夜を問わず働きづめだった。 それでも、たまの休みには僕と母親を連れて旅行に連れて行ってくれたり、近所の…

「もがく」 2007年03月13日作成

「あははははははははははははははは」 目覚めたとき、母親が笑っていた。 何か面白いことでもあったのだろうか。 私が訪ねても返事は返ってこなかった。彼女はただ笑い続けながら朝食を作っている。 「あははははははははははははははは」 笑いながら配膳す…

「拠り所」 2007年03月12日作成

何気なく立ち寄ったリサイクルショップで古びたランプを見つけた。 店の照明を受け、鈍い光沢を放つそれは私の興味を引くのに十分すぎるほどの風格を醸し出していた。 あの有名なおとぎ話に出てくるランプが実在するのならば、それはまさしく今、私の目の前…

「ある星に関する私の話」 2007年03月11日作成

私は宇宙旅行を嗜む者です。 ここでお会いしたのも何かの縁。 私が見てきたある星についてお聞かせいたしましょう。 その星は大小様々なドームで覆われていた。 私はその中のひとつに侵入してみることにした。 地面にはやわらかく耕された畑が一面に広がり、…

「夢の支配者」 2006年09月24日作成

どこまでも続く暗闇を私は走り続けていた。あの男から逃れるために。 どれだけ走っても風景に変化はない。漆黒の暗闇が世界を支配している。何も見えない。ただ、背後から迫り来る重厚な足音だけが響いている。ヤツはすぐそこまで迫っている。私を殺すために…

「穴」 2006年09月20日作成

僕の肛門は世界に狙われている。 理由はわからない。ある日、突然、世界中の人間が僕の肛門に何かを挿入しようと追いかけてくるようになったのだ。 あるものは男性器。あるものは腕。またあるものは刀……。 冗談じゃあない。肛門にそんなものを入れられてたま…

「新説竹取物語」 2006年09月16日作成

山奥の古ぼけた民家で、囲炉裏の火に当たりながら女はため息をついた。 「どうしたんじゃ、ため息なんかついて」 女の正面で暖をとっていた老人が話しかける。 「ううん、なんでもないの」 女はそういって首を横に振った。 「帝様の事を考えていたのでしょう…

「楽曲『変化』」 2006年09月15日作成

少し肌寒い風が夏の終わりを静かに告げ、虫達の音色が寂しげに鳴り響く季節。妻に付き添われ嫌々訪れた病棟で、私はぽつねんと長椅子に座り診察を待っていた。 「田中さん、お入りください」 診察室の中には、私と同年代だと思われる壮年の医師がいた。少し…

「甘口カレー」 2006年09月12日作成

夕方、鈴虫の鳴き声を聞きながら帰宅すると、カレーの匂いがぷぅんと漂ってくる。 またカレーか……僕は少しうんざりしながら玄関のドアを開ける。 「ただいまー」 「おかえりー、ご飯出来てるよ。早く食べよう」 母が台所から笑顔で出迎える。その手にはカレ…

「突撃ラヴァーズ」 2006年09月10日作成

パチ…黄昏の教室に澄んだ音が響いた。 「はい……王手。また僕の勝ちだね」 勝者はそう言うとマグネットの将棋版を片付けだした。 「くっそー! お前卑怯なんだよ! 王将をそんなに後ろに引っ込めるなんて男らしくないっての!」 敗者はそう叫ぶと、背もたれに…